バスを降り立つと、そこは雪国・・・もとい東京駅であった。

どうしてこうなった・・・横浜はいつ過ぎたんだ。

狼狽しながら寝癖満載の頭に帽子を被せてフラリフラリと東京駅の中に入っていった。

さすがに首都の名を冠する駅だけあって規模もスケールも大きい。

神奈川駅を見たまえ。

急行すら止まらない、それはそれはもう小さな駅である。

隣の横浜駅と比べたら目を覆うばかりである。

神奈川県民であり横浜市民である人が、出身地を聞かれたら「横浜です」と答える気持ちもよくわかる。

さもありなん。

県名を冠した駅があるだけまだ良い。

我が故郷滋賀なんかは、滋賀駅などそもそも存在すらしないのである。

これだけでも、いかに東京が大都会であるか窺い知ることができる。

さて、そんな近未来のような東京駅に入っていったのであるが、長時間バスに座っていたのでまずはトイレに行きたくなった。

しかしながらだだっ広い東京駅である。

思わず過去から来た原始人になってしまった。

「何なんだ・・・ここは・・・。」

原始人がトイレを闇雲に探したとて、到底見つけられるはずなんてない。

ということで壁に張ってある地図を見た。

原始人とて地図くらいは読めるのである。

かなり我慢していたので出来るだけ近いトイレがいい・・・トイレ・・・発見!

見つけるや否や、競歩的な感じでトイレへと向かい着いたのではあるが、トイレのドアを開けようとすると鍵がかかったかのように開かない。

ガチャ、ガチャガチャガチャ!

ドンドンドンドンッ!

原始人は狼狽した。

あろうことか、これが噂に聞く有料トイレだったのである。

もうこちとら沈没寸前なのである。

ところが、助けにやってきた豪華客船は「乗りたければ金を出せ。」というのである。

理不尽である、世の無情というものを感じたのは前回のラムちゃんのオヤジの一件以来だ。

理不尽だとは思ったが、本能のなすがまま震える手で百円玉を投入しドアを開きトイレに駆け込んだ。

万が一にでも粗相をしようものなら、もはや人に成ることは叶わぬ、原始人として生きていくしかない。

即ち、これは人が人間としてこの世で生きていく為に選択しなくてはならない究極の道であったのである。

ふぅーっと一息つき、スッと目を閉じ、ゆっくりと目を開ける。

どこからどう見ても、普通のトイレである。

確かに駅のトイレにしては綺麗なような気もするが、百貨店等のトイレに比べると逆に見劣りするかもしれない。

けれど最大の危機を脱することができたその至福。

それは100円以上の価値はあったと、その時は確かにそう感じられたのである。

全く不思議にものである。

便器に座りながら、考える人のようなポーズを取っていたら、或る言葉が頭に浮かんだ。

・・・素晴らしき哉、人生。

前の記事
優良ドライバー
カテゴリー
K.K
次の記事
Web小説
カテゴリー
フラワ